先日、Y市に勤めていた衛生士さんと一緒に飲む機会がありました。
今日はその時聞いた話です。
彼女の勤めていた歯科医院の先生はイイ男と呼ばれるにはほど遠い顔立ちをしていた。
顔が下ぶくれている。
少々上向きのブタっ鼻は愛嬌で許される程度の物だけど、
彼の最大の特徴は、とんでもないタラコ唇をしていることである。
アフリカにあんな部族いたよな〜って誰もが思い浮かべるような唇である。
そんな院長にも2つ素晴らしい肉体的特徴があった。
まずは、その声。
遠くにいても良く通る声は、若々しいテノールで響いてくる。
誰もがうっとりする美声なのだ!
もう一つは目。
彼の二重瞼の奥にある瞳には、吸い込まれそうな魅力がある。
形の整った切れ長の眉と合わさると
まるで少女漫画に出てくる☆がきらめいているような目元をしているのだ。
さて ご存じのように歯医者さんは診療中はマスクをしている。
この先生の欠点は見事にマスクに覆い隠されているのです。
患者さんがその目と声で勘違いするのも仕方ないこと
どうやら勘違いをした20代の綺麗な女性の患者さんが先生に恋をした。
ちょっと見れば飲み屋のオネーさんの様にも見える彼女は傍目からでもそれと解るほど熱を上げている。
先生の方も独身だけど清楚な女性がタイプなので、彼女がお熱なのにも気が付いてないらしい。
彼女に対してごく当たり前に診療をしていたある日
ぼちぼち抜歯をしないといけない。
今日はどうだろう?飲み屋に勤めていると思った先生は気をつかい
「今日、飲みますか?」
すると、彼女ははにかんだ表情で「はい」と恥ずかしそうに答えた。
側にいた衛生士は笑いをこらえるのに必死である。
「そうですかそれじゃあ・・・」明日歯を抜きましょう と言うところが
受付の「院長!歯科医師会からお電話です!」にかき消されて聞こえなかったらしい。
電話から帰ってきた院長は
「今日は無理だから明日にしますね♪」
と素敵な声で彼女に言った。
次の日、院長が診療を終え服を着替えて衛生士さんと話しをしていると
勘違いした彼女が、診療が終わる頃を見計らい、綺麗に着飾ってやってきた。
マスクをはずした院長を見ても気づかない。
「すみません 院長先生と約束してるのですが呼んでいただけません?」
と院長に言った。
空気が一瞬凍り付き、衛生士さんは必死に笑いをこらえた。
「私が院長ですが・・」と憮然と答える
「あなたじゃなくて、ここの院長先生のことです!」
「だから私が院長です!!わかりませんか!?」
にらみ返す院長と目と目が絡み合い、聞き覚えのある声と共に彼女は「はっ!」と悟った。
やがて小声で尋ねるように
「い 院長なんですか?」と呟くと
今度は大声で叫びながら走り去った。
「 う そ つ き ぃぃぃ〜!! 」
院長は呆然と立ちすくし 後ろ姿を見送った。
その後 彼女を見た人は誰もいない。